カノン進行と、メロディのはなし

先日、教室でのレッスンの際、「J-POPはカノン進行が大好きだ」という話をしました。

まぁ日本人に限ったことではないかもしれませんが、この進行は至る所で使われてます。ネットで調べても出るわ出るわ。しまいには「カノン進行 都市伝説」なんてGoogleさんが勝手にはじき出してくれます。なんじゃそりゃ。

カノン進行とは、パッヘルベルのカノンという曲で使われている進行のこと。
パッヘルベルは人の名前で、カノンは曲の形式なので、この曲の固有のタイトルではないんですが、これが有名になりすぎて、カノンと言えばこの曲を指すようになってしまいました。太閤=秀吉みたいなもん。

 

C – G – Am – Em – F – C – F – G

 

これが全貌。アコギでも持ってる人は、一度かき鳴らしてみると、「どこぞで聴いたことのあるええ感じの響き」がすると思います。

これを基本として、部分的に少し違うコードが挿入されたものが無数に存在します。

C – G/B – Am – Em/G – F – C/E – Dm7 – G7

なんて、ベースラインの下降を織り込んだものなど、日本だけでも1万曲は下るまいと思われます。

 

あまりにありきたりすぎて、この進行で作った曲はどれも一緒になりがちです。コード進行から曲を作ると、作りやすい反面、響きに引っぱられすぎて、独特のメロディを生み出しにくいという弊害がありますが、ここまであちこちで耳にする進行だと、まさにあちこちで聴くような曲に終始してしまいます。

とはいっても、無数にある中にも個性的な曲がちゃんとあります。
ぱっと個人的に思いついたのが三曲。

 

1.さくらんぼ(大塚愛)

すでに一昔前感が否めないヒット曲ですが、この一時期どこでも流れたサビのメロディはまんまカノン進行です。

この曲のメロディをありきたり感から救っているのが、サビ出だしの「笑顔咲く 君と」の”きみ”という部分のメロディの跳躍。原曲でも”み”で裏声になりますが、この跳躍がこの曲の個性を生み出しているんじゃないかと思います。”み”が落ち着く音はコードのルートなので、極めてオーソドックスな跳躍ですが、それゆえにポップさを感じます。

大塚愛はこの曲だけ極端にヒットして、アルバムの中の曲はaikoの二番煎じみたいなものがわりと多かったですが、しっかりしたメロディとアレンジを持っていた記憶があります。アイドル的な売れ方をしない方がかえって良かったんじゃないか、という気も。

 

2.希望の轍(桑田佳祐)

巷ではサザンの曲として知られていますが、厳密には「桑田佳祐&小林武史」なので、そういう扱いで一応いっときます。

Aメロ出だしの部分はまんまカノン進行ですが、最後の F – G が D7 – G になってます。このD7に変化しているところがこの曲では特筆すべきところで、ここだけで憂いを含みつつも前向きさを感じることができ、タイトルにもある”希望”を感じさせます。

カノン進行は基本的にはメジャーキーでありながら、Am – Em とマイナーコードがふたつ続き、さらにその後にサブドミナントのFがくることで、メジャーキーの中にふと感じさせる憂いのようなものがあります。そこが日本人に受ける理由じゃないかと思うんですが、この曲はイントロがメジャーからマイナーキーに行き、Aメロはカノン進行、Bメロはサブドミナントから始まり、さらにサビでマイナーキーのロック調へ劇的に展開することで、安定したカノン進行のAメロがより強調されている気がしますね。

 

3.チェリー(スピッツ)

YUIの方ではなく、90年代に大ヒットした方。

このメロディもちょっとこの進行からは浮かびにくい独特のものですが、「生まれたての太陽と 夢を渡る黄色い砂」という部分に尽きると思います。この部分のメロディは落ち着く場所は3度とかで、実にオーソドックスそのものなんですが、ちょっとなかなかひねり出せない魅力的なものです。

キーがCメジャー、さらに典型的カノン進行、Aメロとサビだけという、非常に単純な構成を救っているのが、16分シャッフルのリズム。そして、この曲調でありながらサビがマイナーコード始まりなところでしょうか。

スピッツの曲はコードが単純で素晴らしいメロディを持っている曲が多いですが、そこに草野マサムネの天才性が現れていると思います。

 

というわけで、適当に書き散らしてみましたが、なんせこの進行はあらゆるところで耳にします。作曲をやったことがない人はまずこの進行辺りからメロディをひねり出してみたらいかがでしょう。まぁ、ありきたりなものばかりになると思いますが…。