Billy Joel「Just The Way You Are(素顔のままで)」のコード進行を科学する

先日サックスのソロをギターで弾く記事をアップしたビリー・ジョエル「素顔のままで」ですが、今回はコード進行の解析をしてみます。

セカンダリードミナントとサブドミナントマイナーコードが多用されたカラフルな進行はまさに王道ポップスコード進行と呼ぶべきもの。さてさっそく行ってみましょう。

イントロ

Dの低音をそのままにして、上にD→Gm→Gと乗せていく進行。最初はエレピだけの静かなイントロですが、良い感じの進行となっています。

 

Aメロ


さて、ここからが本番です。青字の度数は曲のキーDをIと見立てたもの。下の赤字は解析の際の捉え方の部分です。

まず一段目の右端にD7が登場。Dを基準とした度数表記ではI7となりますが、次のGをIと見立てるとV7の扱いとなっています。このように特定のコードに向かうために前にV7となるコードを挿入することはアレンジ上よくあることで、このような使い方のセブンスコードをセカンダリー・ドミナントといいます。セカンダリードミナントはこのようにIVに向かう前のI7が一番多く見られ、昨今のJ-POPなんかでも当たり前のように使われます。

ちなみに2段目の最後にあるAm7-D7-Gも同じ扱いの進行ですが、こちらはD7の前にAm7を入れることで、IIm7-V7-Iとツーファイブの進行が挿入されている感覚です。

2段目の2小節目はIVmが登場。これはサブドミナントマイナーと呼ばれるもので、おもにIVmを指します。柔らかい響きが特徴で、ポップスでは王道的に使われます。この曲はイントロからしてGmが出てきますし、サブドミナントマイナーが多い曲の一例ですね。3段目のようにm6という形を取ることも多いです。

IIm7/V、IV/Vのはたらき

最後の段のBm7/Eですが、下の赤字にはIIm7/Vとあります。AをIと見たときの度数表記ですが、このような“IIm7/V”はV7と同じ役割を果たします。次のEm7/Aも同じ扱いですね。つまりここは単純に書くとE7→A7に過ぎないわけですが、ちょっとお洒落な雰囲気を入れるためにこのような進行になっています。

V7の代わりとしてお洒落に使えるコードはIIm7/V以外にも、IV/VやIVmaj7/Vなんかもありますね。全部構成音もよく似ていて、普通のセブンスとは違う洗練された響きが得られます。

 

Bメロ


一段目の進行は王道すぎて今や飽きられているパターン。自作曲で初めてポップスを作ろうという人はまっさきにこの進行を使うと良いです。どこにでもある曲がすぐ仕上がります。

この部分は3段目から転調しています。DからFですが、FメジャーはDマイナーと一緒なので、DからDマイナーとも言えるわけで、このような「同主調」どうしの転調は山ほどあります。ビートルズの「While my guitar〜」のように、サビだけメジャーで普通のところはマイナーというものが多いですね。この曲は違いますが。

ちなみに、互いのV7に当たるA7を軸としてDやDmに行ったり来たりして転調をこなすものが多いですが、この曲ではBbmaj7から鮮やかに入れ替わっていて、結構強烈な場面転換が行われてます。
最後、2小節Em7/Aを続けてDに戻りますが、上の「IIm7/V、IV/Vのはたらき」項で書いている通りEm7/AはA7と同じ役割なので、やっぱり戻るときはA7を軸にDメジャーに戻っている感じです。

同じ転調はエンディングにも登場しますね。1音半も上に上がっていることになるので、かなりしっかりしたサウンドになります。

 

まとめ

まったく嫌味のない、ストレートなポップスの進行。カーペンターズなどを聞いていると、コード進行自体が非常に凝っているものが少なくないのですが、ビリー・ジョエルの曲は、このような普通のコード進行に、優れたメロディやアレンジを与えることで美しい曲を仕上げているというケースがよくあります。

歌い手のみならず演奏家にも同じぐらい愛されているのはそういう理由もあるのかもしれません。