Positive GridのBiasは2017年頃にHeadとRackのハード版が出て、楽器店で初めて見たときに「なかなか面白い品を出してきたなあ」と思ったもんですが、当時は重すぎて運べないという理由から、早々に自分の中で却下したのでした。
2018年の中頃にMiniが登場して、なんと2.5kgの軽量というではないですか。その年の最後に導入に踏み切りまして、購入後今に至ります。
ちなみに、購入後に僕を襲った接続トラブルについては別記事にまとめました。iPadからの接続方法もこちらに記載です。
Bias Mini Guitarに起きた接続トラブルとiPadとの接続方法
音色
ソフト版のBias Ampと全く同じです(笑)とはいえ、ゼロレイテンシーでトラブルの恐れも無く、通常のスピーカーキャビネットに繋げるのはでかい。ギターのボリュームやピッキングダイナミクスへの追従性、モデリング系にありがちなしょぼいハイゲインなどとも縁がなく、実戦でまったく使える印象を覚えます。
かつてない作り込みの柔軟性
色んな機材を使っても、アンプだけでは物足りず、手前にブースターを噛ましてみたり、前後にEQを挟んでみたりするのが普通です。実際モデリング系のマルチエフェクターなんかでは、理想に一番近い音を出すアンプを見つけて、その前後にエフェクトを付けて補正していくやり方がほとんどのギタリストにとっては基本でしょう。裏返して言えば、アンプだけのセッティングではなかなか限界があるということですが、BIASはその限界を超えてしまうポテンシャルを持っています。
プリアンプからトーンスタック、パワーアンプに流れ、電源トランス部に至るまでのパーツをゼロから設計することで、コンプレッション感、サチュレーション、音ヌケや低域の飽和感など、通常のアンプのEQでは到底追い込めないところまで追い込んでセッティングできるので、単純な音作りの柔軟性はどんな機材より上です。前後段に挟める2箇所のEQと、モデル数が多いリバーブがまた渋い仕事をしてくれます。
(参考:BIAS AMP 2の音作りを徹底解説!)
ソフトのBIASをすでに導入している人なら分かりますが、この音の幅広さは唯一無二。BIAS MINIやBIAS HEADを使う最大のメリットでしょう。
ファクトリー・プリセット
以下は家の練習用アンプのキャビネットから小音量で出したものを録音。ツマミだけでディスプレイしかない潔い仕様のため、プリセットナンバーだけでは、何のアンプか分かりません。
GREEN 2 ’66 British TB 30
GREEN 6 Tweed Lux
GREEN 7 Mini Duo Reverb
Red 1 British Lead 800
Red 4 Monster VH4
Red 8 5153 MkII
パワーアンプから実際に出してみるとややエッジの立った音に聞こえますね。演奏している感覚としてはリアルアンプとまったく遜色なしといった風です。クランチまでのモデルはややゲインが低めに作られている印象です。これはうちのギターが低出力なのもありますが。
上で書いている通り、デフォルトで入っているファクトリー・プリセットは、本体では数字と色でしかないので、音で推測する以外はどんなアンプなのかわかりません。Bias Ampソフトウェアに接続して表示されるものはこちらです。上側の8つがレッドチャンネル、下の8つがグリーンチャンネル。
Bias Miniの魅力を伝えるのに十分な量にして、どれも優れた音質。つないで最初に音を出したときに「おおっ」と唸ってしまいました。
惜しむらくは出力差があり、音量の大小がけっこういい加減です。これは使用ギターによっても変わるので全て均一というのは物理的に難しいというのもあるでしょう。
使い勝手
操作性
300Wのパワーアンプを搭載してこれだけの機能を詰め込んで、この大きさにしてこの重さであれば全くの許容範囲。パワーアンプを内蔵しているせいか、ずっと本物のアンプらしく運用ができ、複数のアンプモデルをライブで使い分けられるというのはとてつもない魅力です。
反面、かなり小さくするのに腐心したのか、ツマミが少なすぎて本体で制御できることはほぼなく、単一での使い心地はあんまりです。つまみはゲインとEQとマスターですが、マスターは選択中のアンプのマスターを上げたような音色にシミュレートとするという類のもので、実際の音量はほとんど変わりません。右側のOUTPUTで音量を制御すると本体の音量が変わるので、プリセットごとの音量バランスは変わらないということになります。
プリセットごとにたとえば「クリーンだけ大きすぎるからちょっと小さくしよう」と思っても、ソフトウェアをいじらなければできません。よって一緒にiPadやらノートパソコンを持ち歩くのが必須になります。
しかし、一旦ソフトウェアとの連動が完了すると、持ち時間の少ないリハーサルでも、iPadなどを利用してある程度のセッティング変更は可能です。ディレイやブースターなどのエフェクト部以外の音作りを一任した上で、センドリターンを利用した軽めのボードなど組んでおけば、実戦でもまったく問題のない運用ができます。アンプ自体は実質16チャンネルのアンプを使っているようなもんで、七色の音色が出せる夢の機械です。
細かな使い方
300W仕様なので、最大音量はかなりのところまで上がりますが、小音量のコントロールはしやすく、家での練習用の音量も細かく調整できます。大出力アンプにありがちな、ミリ単位で急激に爆音になるような上がり方をしません。これはデジタル制御ならではの恩恵ですね。
キャビネットを別で導入して普通のアンプとして練習 → 本体だけ持ち込んでキャビにつないでリハーサル、ライブ
という使い方はしやすそう。小型キャビを導入して持ち運び可能にするというのもありかも。あとは、小型アンプのAUX INにLINE OUTから突っ込む、あるいはJC-120のReturnにBias MiniのSendから突っ込むという方法もあります。せっかくなのでパワーアンプ内蔵の強みをいかしたい気もしますけどね。
外部空間系エフェクトの必要性
エフェクトがないので、空間系などは別途センドリターンにかますことになります。根本的にHelixとかAxe-Fxとかとは違う設計思想で作られているので、比較検討のさいには対象にすらするべきではないでしょう。「あくまでアンプです」という潔い仕様はそれなりの魅力でもあります。まあリバーブだけはあるんですが。
センドリターンにもどうせならマルチ系を挿して、小規模システムを図りたいところですが、個人的に考えたのは以下のような組み合わせ。
Eventide H9
単一でも無類の信頼性を誇るEventideの●●Factorがほぼ全部内蔵されているという、空間系では最強の存在。値段が高く操作性が悪いものの、場所をとらず比較的軽量な筐体がなんせ魅力です。これを導入する場合、Bias Mini本体のプリセット切り替え用にMIDIスイッチかフットスイッチが別途必要になってきます。結局それで重くなってしまう可能性も。
Line6 M9 Stompbox Modeler
一昔前のマルチ。これのメリットはMIDIのプログラムチェンジが送れること。デメリットはやはり古すぎて、音質や操作性が現代に即していないこと。古い機材とは言え、今でもファンの多いLine6 DL譲りのディレイが付いており、ディレイについては相当良い模様。値段も中古で2万ぐらい。
Line6 / M9 Stompbox Modeler (サウンドハウス)
Line6 HX Effects
Helixのエフェクトだけを取り出したもの。音質は相当よさそうで、機能的にももはや何でもできるレベルの製品。アコギ用にも使え、MIDI信号も送れるし、スイッチもたくさんあって操作性も抜群。ただ、単一で2.3kgとかなり重く、Bias Miniとの運搬がきつそう。価格がH9と張るぐらいに高い。
ここはいまだ調査中、検討中なので、入ってるエフェクトや使い勝手も色々考えて、当ブログで一度まとめてみたいところです。
まとめ
多数のアンプを中に入れて持ち運べるという感覚の製品ですが、既存のアンプを完全コピーするKemperと違うのは、カスタマイズ性が異常に高いこと。セッティングの幅広さ、カスタマイズ性の高さは群を抜いており、オリジナルアンプを作り込んで持ち歩く感覚に近く、エフェクトの有無を差し引いてもKemperとは若干立ち位置が異なります。
もちろん、既存のアンプに近い音色をフィーチュアすることもできますが、こいつの真骨頂はやはりオリジナルのセッティングにこだわってこそでしょう。
エフェクトがない辺りも含め、あくまでアンプという性格を崩すことなくこの市場に売り込んできたPositive Gridのこだわりを感じますね。
2.5kgでハーフラック型の大出力軽量アンプなどは最近かなり増えており、その中でもやや高めの価格でデジタルモデリング系ということで、やや他とは性格の違う一品ですが、作り込みにわくわくできる実戦派のギタリストなら買って損はないでしょう。逆に宅録派であればソフトの方で十分ということになります。