ビートルズ(The Beatles)「Blackbird -ブラックバード-」のコード進行を科学する

ビートルズの曲はコード進行が独自すぎるものが多く、そういう意味で理論的解釈など通用しない曲がわんさかとあるわけですが、とりあえず今回はアコギの名曲として定番のBlackbirdを取り上げます。

Blackbirdについて

もともとホワイトアルバムの中の単なる一曲にすぎないわけですが、この曲はカバーもやたらと多く、ホワイトアルバム内では「OB-LA-DI OB-LA-DA」「While My Guitar Gently Weeps」につぐほどに一人歩きした出世株となっています。

この曲のコードに関しては、市販の本などを見ても、GとかD7とか、分かりやすいところだけをまとめて大きくおおざっぱに取ってあるケースが多く、場合によっては最初から表記していない場合もあります。

ここでは、可能な限り細かく切って解説していきます。


↑とりあえずギターだけ弾きました。最後が間違えて一回多いです。他にも色々いい加減。

基本的な弾き方

ところで、解説の前に弾き方ですが、基本的なフィンガーピッキングスタイルの指使いとはかなり違います。2弦が人差し指で、ルートが親指。上の動画では1弦を使っていますが、多分原曲はあまり使っていない可能性が高いです。

で、親指と人差し指でつま弾いた後に、そのまま人差し指で軽く2,3弦周辺をストロークします。親指と人差し指の2本しか使わない、これがマッカートニー・スタイル。僕が弾いてる動画はかなりいい加減に我流になってますが、この辺の解説してるものは山ほど落ちているので、本当の詳細な奏法が知りたい方はそちらをご参照のこと。

ちなみに、Yesterday、Mother Nature’s Sonなどでも同じような弾き方が出てきます。下に置いてある譜面はそれを無理矢理タブに起こしているので、ちょっと見にくくなってます。

 

イントロ

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さてまずは超有名なイントロから。

この超スライドの上に五度上がりのメロディを載せるところなど、常人離れした技としか言いようがありませんが、コード進行は至ってシンプル。

シ→ド→レ のトップノートに G→A→B のルートを合わせるのはポール・サイモンとかもしょっちゅうやっている定番の動きですが、コードネームは上記のように G – Am – G/B となります。

 

Aメロ

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次はAメロ。

Cから半音ずつベースがあがり続け、それに合わせてトップノートもメロディラインとして一緒に動いていきます。歌のメロディとは全く違う動きをしているのがポイントで、単なる弾き語りなのに、ギター1本でカウンターメロディまでも操っています。

コード進行は推測込みですが、C – C#m7-5 – D – Ddim -Em。
理論的にはパッシングディミニッシュといわれる使われ方ですが、見事なまでにメロディアス。

後半でルート音の半音移動は影を潜めますが、今度はトップノートが半音ずつ下がっています。Cから最後のGに行くまでにミからシまで半音ずつ下がり続けます。途中のCmやA7などはその結果として表れたっぽいコードですが、これは理論的にもサブドミナントマイナー、セカンダリードミナントなどと名前が付いており、やわらかい雰囲気が出るのが特徴です。たぶん感覚でやっているだけだと思いますが、素晴らしいアレンジ。

同じくホワイトアルバム収録の「Mother Nature’s Son」にもこれと似たような動きが登場しますが、この頃ポールが凝っていたアコギのアレンジ法なのかもしれません。

 

サビ

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ここまでメロディアスな動きをギター1本で見事に作り上げていたのが、ここで唐突に転調します。

サビはF始まりで、C/E→Dm→Cという流れ。二つ目のコードはEmでもいけそうですが、メロディがドを歌っているところから、Cと解釈。次の小節にBbが登場し、かつメロディもファを経由していくところから、キーはFになっていると考えられます。…ちなみに、上の動画では間違えてBを弾いてます。色々ええ加減。

最後のところで、Aメロに出てきたものと同じパターンに移り、そのままイントロに戻るという流れ。この際、1音も転調しているわけですが、自然すぎていつ戻ってきたのか分からないです。

 

まとめ

というわけで、細かく区切るとなかなかにテクニカルなコード進行と捉えることができますが、この曲はもともとバッハの曲を参考にしたという話があります。真偽のほどはわかりませんが、高音と低音が分離独立して動く対位法的発想は、普通のロック・ポップスにない作り方なのは確かです。とはいえ、やはり天才的発想がなければ、とても計算だけで作れる曲とは思えません。

この曲のカバーが多いというのは冒頭に述べたとおり。個人的にはビートルズのカバーはことごとくが原曲に負けているので、基本的に好きじゃないんですが、ビレリ・ラグレーンとシルヴァン・リュックのギターデュオ版Blackbirdは数少ない好きなバージョンです。

 

ところで、最後まで解析を書いたところで、この曲のカバーが多い理由がいくつか分かってきました。

・ベースラインと上のメロディが同時に変化する、ゴスペル的、クラシック的な曲の作りが、幅広いジャンルの音楽家にウケが良い
・ベースとカウンターメロディ、歌メロと、3要素分が見事に配分されており、様々な楽器でカバーしやすい
・原曲がギター1本なため、アレンジしやすい

というような理由があるんじゃないでしょうか。

無論、曲が素晴らしくなければカバーなどされるわけはないのですが、そこは世紀の天才、ポール・マッカートニーなので、もう言うまでもないところでしょう。