日本の住宅事情では、自宅でアンプをガンガン鳴らせる人は恐らく少数派です。家に防音室があるとかよほどの田舎でない限り、小音量で弾くか、ヘッドフォンの使用を余儀なくされるケースがほとんどでしょう。最近ではスマートフォンをそのままアンプ代わりにヘッドフォンを繋いで練習する人も増えてきました。
IK Multimediaのスマートフォン用インターフェースはこの手の製品の定番であり、評価は二分されています。個人的にはAndroid端末で使えるiRig UAの一択のみで、iPhone専用(HDはPCもいける)の通常版iRig2や、上位版のHDは除外。
先日練習用にiRig UAを入手して、実際に使っているので、実際に録音した音源を使ってレビューしてみます。
イタリアのブランドであるIK Multimediaが、世界的シェアで今や少数派のiPhoneを優遇した製品作りをしているのは結構謎ですね。
UAは通常版とHDの間の値段であり、安くはないです。通常のiRig2が安いのを見るとなんだか損な気がしますが、iRig2とは違いUAは内部で計算を行うので、スマホ本体にかかる負荷が少なく、レイテンシーなどが発生しにくいです。
専用ソフトのAmplitube UAは最低限のアンプモデルとエフェクトがそのまま使えるので、初期費用としてはUAの本体代のみ。Amplitubeのソフト側で他にも色々買ってプロセッサを付け足すことはできます。
音色
クリーンとクランチ(オーバードライブ)、ディストーションをそれぞれ録音してみたものがこれ。
PCに直接音を送り込み、エフェクト一切掛けずにそのままです。ディレイやリバーブもAmplitube UAで掛かっているものをそのままにしてあります。使用ギターはいつものSagoではなく、Ibanezのセミアコ。
クリーン、クランチは秀逸
クリーンの美しさは素晴らしいです。カッティングっぽいのからアルペジオに移ってますが、いずれもそのままレコーディングで使えそうなレベル。アンプモデルはフェンダー系Blackface。やや中域を上げつつ、低域を控えめにして、ちょっとだけトレモロを。ジャズ系のトーンや、煌びやかなアルペジオまで、実用的にいけそう。
このマーシャル系モデリングはあまり歪まないので、ヴィンテージ系ではないかと思われます。JCM800よりは前のものでしょう。Plexiの1959の可能性大。「LEAD」と表記されていますが、実際にリードギターで使うにはゲイン不足を覚えます。ただ、音色自体はなかなか良い感じです。ざっくりとしたマーシャルの歪み方がうまく感じられ、芯の残った中低域まで、弾いていて中々気持ちの良い音です。
ちなみに「CRUNCH」の項目にはVOX AC30らしきモデリングが入ってますが、これよりはマーシャルの方がかっこいい音が鳴りますし、ゲインつまみがある分、使いやすいのもポイント。
ディストーション系は線が細い
「METAL」という表記のもので、モデリングはメサブギーのRectifierでしょう。上手く使えば芯の残ったきれいなディストーションが得られそうですが、どうも芯が細くなりすぎるきらいがあります。モデリング系のハイゲインアンプはダメなのが多いですが、これも例外に漏れず。
これはアンプに「OVERDRIVE」を足して作っていますが、ちょっとチリチリすぎます。詳細は下で。
歪み系ストンプはさらにチリチリ
ここが最大の難点。マーシャルをオーバードライブでブーストするような設定にすると、低域がスカスカになり、高域の上の方がチリチリしてきます。特にグリーンの「OVERDRIVE」はひどい。これはチューブスクリーマーでしょうが、全然スクリームしてない。ディストーションはまだマシなので、ブーストに使うにはそちらをおすすめ。
下の方にもう一つ音源が置いてありますが、それはディストーションの方を使ってます。
操作性など
ヘッドフォンは本体からの有線のみ
本体にはギターインプットとヘッドフォン用アウトプットが備えられており、再生は有線でここから行うしかありません。スマートフォン側のBluetoothを試してみましたが、Amplitube側で発生した音声は再生できませんでした。Bluetoothスピーカーなんかに飛ばせたり、無線イヤホンが使えたら良かったんですが、iRig UA側でプロセッシングしているため物理的に難しいんでしょう。
スマホ側でのバックトラック再生が◎
これが最大の強み。iReal ProやYouTubeのカラオケ音源を流しながら、その上で簡単にギターを演奏できます。UA側のアウトプットから同時に再生できますが、音量を個別に設定は出来ないので、スマホ側の音量調整とUA側のボリュームを併用してバランスを取ります。この辺り、もう少し簡単にできるとありがたかった。
Amplitube UAはまさに必要最低限
AmlitubeのソフトウェアはUA本体の付属の位置づけでしょうが、アンプモデルが3つ、エフェクトも必要最小限しかなく、コンプレッサーやファズでさえ別途購入。まぁ、練習用としては十分なんですが、もう少し遊ばせてくれても良さそうなもんです。
楽曲の録音をしてみた
誰でも知ってる、スティーヴィーの娘について歌った曲。バックトラックはYouTubeから拝借しました。左チャンネルのクリーンは上記の項目で使ってるのと一緒で、フェンダー系のアンプを素で使い、ディレイを多少掛けたもの。
右チャンネルのリードサウンドはマーシャル系を使い、ディストーションのゲインを多少上げてブースト。これ以上ゲインを上げると、スカスカでチリチリの音になってきます。
まとめ
音質はクリーン、クランチ、オーバードライブ程度であればかなり良い線いってます。ディストーション以上まで歪ませるような音楽には明らかな不足を感じると思いますが、この手のデジタルのアンプシミュレーターで、特に小型のものはどれもこれもハードディストーションが苦手です。質の良いハードディストーションをデジタルのプロセッシングで作るには、結構強力なマシンが必要なんでしょう。
とはいえ、練習用としてはなかなか優秀であり、やっぱりスマートフォンの他のアプリと共存できるのはラクでいいです。
最近は家の事情があってアンプで音が出しにくく、実際に練習で使っていますが、元々の音質以上にアウトプットする再生環境が大事っぽいです。ドンシャリにならないギターの再生に向いたヘッドフォンを使うと良い感じです。デノンなんかいいかもしれません。