言わずと知れたスティーヴィー・ワンダーの名曲「Isn’t She Lovely」。原曲は親バカ全開ソングながら、キャッチーなメロディで一躍世界の名曲の仲間入りを果たしました。
今ではセッションでもよく演奏される定番ですね。今回はコード進行をときほぐしてアドリブの解説をいたします!
コード進行とキー
コード進行はこんな感じ。
キーはまごうことなきEメジャー。Eメジャー以外あり得ない終わり方をしています。
凝ったところはあまりなく、ポップな進行に終始しています。それでありながらセブンスの使い方などはジャズでもよく見られるII7、III7を軸にしていたり、V7をそのまま使わずIV/Vとしていたり、この辺りがセッションで好まれる要因でしょう。
ポイントとなるコード
F#7(II7)
動画ではもっとも時間を割いて解説しているII7。
ダイアトニックでは本来IIm7となるはずのところが、曲中ではII7になっているため、通常のメジャー・スケールが外れてしまう原因になります。
G#7(III7)
こちらもIIIm7ではなく、曲中ではIII7になっているため、通常のメジャー・スケールでは音が外れます。非常にメロディアスなコードで、滑らかな響きを持つのが特徴。通常のポップスでもII7以上に多用され、多少の憂いを帯びてくるのは、マイナーコードに向かう傾向が強く出るからでしょう。III7の後は十中八九、VImが来ます。
このIII7はマイナーコードをImと見立てた際にちょうどV7に当たるので、マイナーキーにおけるドミナントモーションとしても知られています。
アドリブでは単一スケールでのアドリブを難しくする第一の存在になります。同じくセッション曲のThe ChickenにおけるD7、SunnyにおけるE7と同じで、このG#7も処理が厄介。これを如何に美しく弾くかがこの曲のアドリブの要と言っても過言じゃありません。
A/B(IVmaj/V)
動画でも説明していますが、F#m7/Bとなることも。どちらも効果は同じで、V7の代理。B7よりかっこよくなるので使われています。フュージョンやブラックコンテンポラリーではお決まりと言って良く、無い方が珍しいです。覚えておくと役に立ちますよ。
アドリブの際にはV7として弾くか、あるいはAmajもB(シ)もEメジャー・スケールに含まれるので、そのままメジャー・スケールなどで押し通しても問題ありません。
使える音選び – F#7
Eメジャー・スケールを弾いていくと4つ目の音が合わなくなります。これを解決する音選び。
ちなみにメジャー・ペンタトニックを弾くと4つ目の音をそもそも弾かないので、素通り可能。実のところこれも有力な一択です。
長3度(M3rd)の音
ダイアトニック進行ではF#m7になっているところがF#7になっています。そのせいで合わなくなるので、F#m7とF#7の唯一の相違点であるM3rdの音を選んで弾いてやれば解決。
この考え方はあらゆる曲で使える上、II7やIII7はかなりの頻度で見ることがあるので、コードに合わせたソロを弾くならM3rdの場所の把握は必須です。
おすすめはコードの形から導き出す方法ですね。
ちなみにEメジャー・スケールにF#7のM3rdを混ぜ込んだスケールはEリディアン・スケールとなります。モードに慣れている人はこっちを弾いても良いですが、大体の人にとって「1小節だけリディアンを弾く」というやりかたは難しく感じるので、M3rdを選んで入れるほうがラクで、かつ良い結果になりやすいです。
[参考音源]リディアンb7th
後述のオルタードと同じくメロディック・マイナー由来のスケールなので、オルタードを覚えれば両方使えます。II7専用スケールといってよく、いかにもと言える妙な響きがします。
動画では入れた例も弾いてますが、個人的にはあまり使いません。以前習っていたジャズピアノの先生はこれが嫌いで、絶対に使わないと言っていました。好き嫌い分かれるスケールのようです。
[参考音源]ホールトーン
コンディミと並んで人為的に生み出された謎音階。II7用、V7の裏コード、使いどころはこの二択ぐらいしかありませんが、かなり巧く使わないとめちゃくちゃ浮きます。動画で一切言及してないのは僕自身が巧く使えないからです。
薄いグレーのところに○7(9)の形が隠れているのがわかるでしょうか。練習する場合はこのコードと合わせてください。
グレッグ・ハウのプレイをよーく聴くと結構な頻度で登場します。
使える音選び – G#7
Eメジャー・スケールを弾くと、7つ目の音が合いません。ペンタでも素通りは無理で、コードの特性的にもM3rdを確実に入れた方が良いです。
長3度(M3rd)の音、ハーモニック・マイナー
F#7と同じ理由で、こちらもM3rdが綺麗にはまります。Eメジャー・スケールにG#7のM3rdを混ぜ込んだスケールは「C#ハーモニック・マイナー」です。EでもG#でもないのに注意。
F#7の時はリディアンスケールが難しいと言っておきながら、このハーモニック・マイナーは個人的にかなりの頻度で使っています。やはり速弾きギタリストの性か…。
[参考音源]オルタード
メロディック・マイナー由来のスケール。オルタード系の7thコード上で使うスケールで、III7は最適。次点がVI7、次がV7。II7上では使えません。
ジャズをやっている人はみんな知っていて、やってない人はまったく知らないという、知名度の極端なスケール。スケール単位で覚えるより、フレーズとして暗記している人が多い印象です。僕も知ってはいますが、ジャズギタリストじゃないので、他のフレーズと釣り合いが取れず、放り込むと結構浮いてしまうんですね。動画で弾いてないのはそれも理由です。
コンディミ
スケールアウトの代名詞。ディミニッシュコードを半音違いでくっつけるという、意味の分からない作られ方をしています。指板中に同じ音が同じ形で広がっていますが、6弦ルートG#7の近場として、ここの部分を覚えるといいでしょう。
形が簡単な割に、スケールを上下するだけで難しく聞こえるのでおすすめ。次の小節できちっと正しい音階に戻る練習をしておきましょう。
[参考音源]ディミニッシュコードトーン
Adim = G#7(-9)
という特性を生かしてディミニッシュを弾く方法。動画では触れていません。
コードネームを意識するよりも、これまたM3rdの位置から導き出すのがおすすめ。一音半ズレていく方法ももちろん可能で、イングヴェイやポール・ギルバートのフレーズに慣れており、ディミニッシュの上下を苦としないならば、練習する価値があります。これは僕自身、かなり使います。
[参考音源] ※2小節目のG#7のところでディミニッシュを展開使える音選び – A/B
A/Bは役割としてはV7なので、B7と見立てた上でブルース系のアプローチが使えます。マイナー・ペンタトニック、メジャー・ペンタトニックなんでもこいです。これもEに戻ったときにしっかり戻れないと、ただ間違えただけに聞こえるので注意。
動画ではラストの2小節続く箇所でこの方法を使って、前半の1小節のところでは使わないのをおすすめしていますが、Eメジャーにちゃんと戻れるなら、1小節だけのところをブルース調にしてももちろん構いません。
※参考音源はF#リディアンb7thの項に配置
まとめ
ラストに動画でもやってる音源を全編公開。譜面は前半しかありませんが、音源は2コーラス分あります。
ポップな進行ながら非常に演奏しがいがある曲で、アドリブも様々な方法が考えられて飽きさせません。ぜひ自分のオリジナルなソロを取れるように頑張ってみてくださいね。