少し前の投稿に「Martha My Dear」をギターで弾く、というのがありましたが、今回はこの複雑なコード進行にせまってみます。
こちらはメインのピアノ動画。ピアノはど素人なんでフォームが悪いのは勘弁してください。ちなみにイントロとAメロはほぼおなじパターンを弾いてますが、イントロは右手が単音、Aメロではコードがついてる模様。
イントロ〜Aメロ
この曲の顔とも言えるイントロ〜Aのフレーズ。まさにポール・マッカートニーの天才ぶりが凝縮されたような部分です。ちなみに前回の「Logic Proでピアノ譜をつくる」の記事で作ってた譜面はこれでした。
解析をすすめるため、度数を併記しました。
3小節目のDm7が、キーEbだとDm7-5となるはずです。この”-5″を省いて普通のm7とする手法は「Here, There & Everywhere」なんかにも見られますが、下段Fコードの時点で非常に安定を感じるので、ここでFメジャーに転調してると考えるのが妥当かなと。Bbメジャーも考えましたが、Fコードでの落ち着きぶりが説明できないので、却下。
上の大きい字のほうがEbメジャーで捉えたときの度数。下の小さく書いてる方がFメジャーで捉えたときの度数。Fメジャーで捉えた際、3〜5小節に掛けてツーファイブを形成してます。分数コードの分母はGm7/F、C/Eともにコードトーンなので、響きはオーソドックスなもの。ここでのポイントは左手で弾いてるベースライン。どこから出てきたのか謎です。分数コードを最初から意識したというより、このベースラインを入れた結果、コードネームがこうなったという感じ。
ちなみに、キーをEbとしてもFとしても、最後のFを除けばダイアトニックから極端に離れていないので、転調がかなり自然に聞こえます。左手のラインもそのナチュラルさを彩るのに大きな役割を果たしてますね。
8小節目からはBbとAbmaj7の繰り返しになりますが、キーFで考えるとAbmaj7はbIIImaj7。CにおけるEbに相当します。3段目あたまのAbmaj9がふわっと浮いた感じに聞こえるのはそういう理由かなと。
そのあとBb7とAbmaj7を繰り返しているうちに、Abmaj7のふわっと浮いた感じはしなくなり、しまいにAbmaj7がIVmaj7、Bb7がV7のように聞こえてきます。知らない間に頭の中でキーFからEbに戻らされているのです。まさに魔法のコード進行。
理論上は3段目ぐらいでキーはEbに戻っているっぽいですね。聴いただけではそんな感じはしませんが。
Bメロ
ここからは結構普通の感じになります。
この辺からベースラインが1度と5度を行き来する感じに。カントリーな雰囲気のラインですが、実際に聴くと上に載ってるブラス隊のせいであまりそういう印象はありません。
BメロはせっかくEbに戻ったキーを、再びFに戻して始まります。
2段目から3段目に行く流れは珍しい”ファイブツー”の流れ。III7のA7が絶妙にはまり、Dm7に戻ります。全体的にマイナー調なのでキーFというよりDマイナーという方が正しいかも。
Cメロ
Bメロの流れを引き継いだCメロ。ここのところでようやくリンゴのドラムが軽快に鳴り出します。ここ好きな場所なんですけど、曲中一回しかないんですよね。
本来Gm7となるべきところがII7の形を取ってます。Dm7-G7の繰り返しなうえ、歌はブルーノートの音(ラ♭)をモロに歌うので、ブルースっぽさを感じる場所です。
Gm7/CはC7の代わりとして使われるコード。AORとかには山ほど登場する、典型的お洒落コードで、度数の所にもそういう旨の表記してます。…が、ここはその次のBbmaj7がGm7/Bbとほぼ同じ構成音なので、Gm7を保ったままベースラインだけがC→Bbと下がっている、という解釈の方が正しいかも。
ここのBbmaj7はIVmaj7になりますが、サブドミナントのIVmaj7はB〜Cメロを通してここにしか登場しません。「ware meant to be」のbeの部分で視界が開けたような雰囲気がありますが、ずっとマイナーとセブンス基調できたのが、ここでようやくIVmaj登場となるので、そのもったいつけた効果とも考えられます。
それにしても一番下のGm7までキーFなのに、そのあとの「ジャッジャッジャ」でEbに強引に戻すという劇的展開。Penny Lane的むりやりな戻し方ですが、前半部分の流麗な転調との差があって面白いです。
どうやって書かれたか
この曲はアコギをやってた中学生ぐらいの頃から、なんとかコードを弾けないものかと思ってた一曲でして、ようやくしっかりしたコード解析ができたという感じです。この頃のポールの曲はコード進行が非常に凝っている物が多いですが、色々と研究していた時期なのかもしれません。Blackbirdなんかはバッハの曲を参考にしたという話まであるほど。
しかし、この曲はなんせBlackbirdのような有名曲じゃないので、どうやって作られたのかあまり明らかなところがないです。よく知られている情報は「自分のピアノの腕を確かめるために書いた」「題名のMarthaは愛犬の名前」という2点のみ。
ピアノの難しい曲を敢えて書いたとするならば、Aメロ部分はやはりピアノ伴奏が先に出来上がり、弾きながら上にメロディを載せた、というのが正しいところじゃないかと思います。Bメロ以降は普通のコード弾きになるところからも、さらに後付けでくっつけた可能性がありますね。
まぁ、どのように書かれようが、”隠れた名曲”の1つには間違いないわけで、ホワイトアルバムの中にこのような名曲が収録されたことを感謝しないといけませんね。